第39回 「エナメル質は削れちゃダメ」は誤解?
「エナメル質は削れちゃダメ」は誤解?歯がすり減る本当の意味と、咬み合わせ・舌ストレスの視点
こんにちは。舌ストレスと咬み合わせ治療の歯科医師、安藤正之です。
今回の動画では「あなたの歯のエナメル質が、なぜ削れなければいけないのか」という、一見すると意外なお話をしています。多くの方が「エナメル質は大事だから、絶対に削れない方がいい」と思っているはずです。もちろん、むやみに削れるのは困ります。ところが、ここには大切な前提があります。
歯はただの硬い物体ではなく、体の一部として緻密に作られた「機能する器官」です。削れてはいけないもの、守るべきもの、そして時に“役割として削れていく部分”がある。この違いを知るだけで、歯の見方がガラッと変わります。
まずは歯の構造をシンプルに確認しましょう
歯の一番外側にあるのがエナメル質です。エナメル質は、ほとんど細胞がなく、歯を守る「鎧」のような存在です。硬さを測るモース硬度という基準で見ると、エナメル質は6から7。鉄よりもガラスよりも硬いと言われるほど、かなり硬い素材です。
歯の中心には神経があります。中は空洞で、その穴に神経が詰まっています。エナメル質と神経の間にあるのが象牙質です。象牙質は細い管の集まりで水分が多く、エナメル質より柔らかいのですが、それでもモース硬度5。ガラスと同じくらいの硬さです。
そして歯は骨に埋まっています。骨と歯の根っこの間にはセメント質があり、その周りにクッションのような繊維が存在します。ここがとても重要です。おかげで歯には弾力があり、わずかに揺れることができます。さらにセンサーとしての機能も持っています。間違って髪の毛を噛んだときに「ん?」と分かるのは、歯がセンサーとして優秀だからです。
インプラントが悪いのではなく「自分の歯の強み」が別格です
歯を失った時にインプラントを選ぶ方は多いです。インプラントはインプラントで優秀です。ただし、自分の歯にある「遊び(弾力)」や「センサー」が、インプラントには基本的にありません。噛む力を感じる繊細さが違うため、気づかないうちに強い力をかけてしまうリスクもあります。
だからこそ私は、できる限り自分の歯を残してほしいと思っています。歯は、硬いだけではなく、揺れ、感じ、守り、調整しながら働くシステムだからです。
本題です。エナメル質は「削れてはいけない」ではなく「削れる役割がある」
ここからが今回の核心です。
エナメル質は大切です。だから削れてはいけない。そう覚えている方がとても多いのですが、実はこの理解だけだと、歯の本当の設計意図を見失います。エナメル質は「一生まったく削れないこと」を前提に作られた鎧ではありません。むしろ、ある条件下では“削れることで守る”役割を果たします。
もちろん、削れ方には「良い削れ方」と「悪い削れ方」があります。問題なのは後者です。悪い削れ方の典型は、強い噛みしめや歯ぎしり、偏った咬み合わせで一部だけが過剰に擦れることです。これが続くと、象牙質が露出してしみたり、欠けたり、ひびが入ったり、歯の寿命を縮める方向へ進みます。
一方で、食生活や噛む回数の歴史を知ると、歯がどんな環境で使われてきたのかが見えてきます。
昔の人は「今の何倍も噛んでいた」
動画では、時代ごとの食事を再現して実際に食べてもらい、咬む回数を比較したデータを紹介しました。
卑弥呼の時代は、1回の食事で3990回、食事時間は51分。
鎌倉時代は2654回で29分。
江戸時代の初期は1465回で22分。
戦前の昭和初期は1420回で22分。
そして現代は620回で11分。
数字だけでも衝撃的ですが、要するに昔は「たくさん噛むしかない食事」だったということです。固いものをしっかり噛み、時間をかけて食べる生活が当たり前でした。
ここで考えてほしいのです。昔の人の歯は、毎日これだけ噛んでいた。エナメル質は、その環境でどうなっていたのか。私はこの続きを次回の動画で詳しくお話しします。
噛む回数が減ると、歯と口の中に何が起きるのか
噛む回数が減ること自体が即悪い、という単純な話ではありません。ただ、噛む回数が少ない食生活が続くと、顎や舌、頬の筋肉の使い方が変わり、口の中の力のバランスが崩れやすくなります。すると、歯に当たる力が偏ったり、無意識の噛みしめが増えたり、歯並びのスペースが狭い方では舌が逃げ場を失いやすくなります。
ここで関係してくるのが、私が提唱している「舌ストレス」です。舌は本来、上あごに収まりながら働きますが、咬み合わせや歯列の条件、姿勢や呼吸の癖などが重なると、舌が本来の居場所を失い、歯や粘膜に余計な接触や圧を生みやすくなります。これが続くと、歯のすり減り方にも影響してきます。
さらに、口の中の緊張が強い方は、首こりや肩こり、腰痛など全身の不調を一緒に抱えていることがあります。もちろん原因は一つではありませんが、「いろいろ試しても解消しない」「原因がはっきりしない」不調が続く方ほど、口の中の力の偏りが隠れているケースがあります。
こんなサインがあるなら、エナメル質の削れ方を確認してみてください
歯の削れは、静かに進みます。痛みがないまま進むこともあります。だからこそ、次のような感覚がある方は、早めにチェックしておくと安心です。
歯が短くなってきた気がする。
冷たいものがしみることが増えた。
朝起きると顎がだるい。
詰め物や被せ物がよく欠ける。
歯にひびが入ったと言われたことがある。
舌や頬に歯型がつく。
これらは「年齢のせい」「体質だから」で片づけられがちですが、実際には咬み合わせや噛みしめの癖、舌ストレスなどが関わっていることがあります。エナメル質が削れていることそのものを怖がるのではなく、「どんな削れ方をしているのか」「力がどこに集中しているのか」を確認することが大切です。
自分の歯を守るために、いま出来ること
歯は硬いです。しかし硬いだけでは守れません。大事なのは、歯にかかる力を整えることです。力が偏れば、硬いエナメル質でも想定外の削れ方をします。
私は東中野で開業し、歯科の枠にとどまらず、卒業後に微生物、生理学、解剖学を学び直しながら、咬み合わせと全身の関係を長年研究してきました。1990年から探究を続け、2018年に「舌ストレス」「舌ストレス症候群」という名称で理論を整理しています。歯の削れ、噛みしめ、舌の居場所、そして全身の不調まで、つながりを整理しながら必要な対策を一緒に考えていきます。
「自分の歯を残したい」「原因をはっきりさせたい」「この削れ方は大丈夫なのか不安」そう感じた時が、相談のタイミングです。小さな違和感の段階で確認できれば、できる対策も増えます。
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