第40回 歯がすり減るのは悪いこと?縄文人の歯に学ぶ「エナメル質が削れる意味」と舌ストレス・咬み合わせ
歯がすり減るのは悪いこと?縄文人の歯に学ぶ「エナメル質が削れる意味」と舌ストレス・咬み合わせ
こんにちは。舌ストレスと咬み合わせ治療の歯科医師、安藤正之です。
前回に続いて今回は、「なぜエナメル質が削れなくてはならないのか」について、もう一段深くお話しします。
多くの方が「エナメル質=歯を守る大事な鎧。削れたら終わり」と思っています。もちろん、むやみに削れていいわけではありませんし、歯ぎしりなどで異常に削れるのは問題です。ですが、人間の歯は“まったく削れない”ことを前提に作られていません。むしろ、年齢とともに適度に形が変わっていくことが、本来の設計として自然なのです。
縄文人の歯は「ほぼエナメル質がない」のに、なぜ平気なのか
今回の動画では、縄文人の歯と、現代人の中でもよく咬んでいた時代(昭和初期)の日本人の歯を比べた資料をご紹介しました。これは日本の人類学研究で著名な馬場悠男先生のご好意で紹介させていただいたものです。馬場先生には、縄文人と昭和初期の日本人のエナメル質のすり減り方について寄稿していただいた動画もありますので、興味のある方はそちらもご覧ください。
さて、ここが一番インパクトのあるところです。よく咬んでいた縄文人では、エナメル質が「ほとんど残っていない」と言っていい状態になっています。さらに象牙質まで削れて、神経が透けて見えるような部分(赤い点)がある。普通なら「痛そう」「しみそう」と感じますよね。
ところが、実は“ある条件”を満たして削れていった場合、歯は意外と平気なのです。その条件とは、上下の歯が長い年月をかけて、お互いに少しずつ摩耗しながら、角が取れて丸まっていくこと。つまり、急激に削れるのではなく、ゆっくり時間をかけて形が変わっていく削れ方です。
歯は削れながら「中身を守る」仕組みを持っている
歯は、ただ削れて終わりではありません。よく咬んで少しずつ摩耗が進むと、歯は内部に「第二象牙質」という物質を作り出します。真珠貝が真珠を作るように、内側から守りを厚くするイメージです。
この第二象牙質が増えてくると、神経はどんどん逃げていき、小さくなっていきます。極端な例では、ほとんど神経がなくなるくらいまで縮むこともあります。だから、外から見ると象牙質まで削れているように見えても、ズキズキ痛むとは限らない。ここが歯のすごいところです。
実際、80代90代で「よく咬んでいてエナメル質がちゃんとすり減っている方」の神経治療は、とても大変なことがあります。神経が逃げて小さくなっているため、削っても削っても神経に到達しないことがあるからです。若い頃は神経が大きく、虫歯治療で神経に近づきやすい心配がありますが、年を重ねて自然に“うまくすり減る”と、その心配が減っていく。本来、人の歯はそういう変化を前提にしています。
ところが現代は「歯だけが若いまま」残りやすい
ここからが現代の問題です。40歳になっても50歳になっても、20歳の時と同じような尖った形の歯のまま年をとる方が増えています。
体の関節は、完成した後は使いながら少しずつ馴染み、角が取れていくのが自然です。歯も本来は同じで、咬んで、摩耗して、丸まっていく。ところが歯だけが尖ったまま残ると、咬む時に力が逃げにくくなり、歪みが溜まりやすくなります。これが、顎まわりの負担や咬み合わせの不調の原因になっていきます。
さらに、あまり咬まない食生活が続くと、顎が小さくなり、歯並びが狭くなりやすい。歯が内側に倒れ込み、舌に当たりやすくなり、舌を刺すような状態になることがあります。これが、私が提唱している「舌ストレス」です。舌ストレスは、舌そのものが悪いという意味ではありません。咬み合わせや歯列、顎の成長、日常の使い方の結果として、舌がいつも逃げ続けなければならない環境ができてしまう。その“負担”を分かりやすく表した言葉です。
理想は「よく咬んで自然に削れていく」でも、現代では難しい
理想形を言えば、エナメル質が削れるくらいよく咬んでいれば、歯も立ち上がり、顎も広がりやすくなります。ところが、卑弥呼の時代のように「1回の食事で4000回咬んでください」と言われたらどうでしょう。今の生活では、正直、受け入れられない方がほとんどだと思います。
そこで必要になるのが、歯科医師による“調整”です。正常に咬んでいれば、年齢とともに削れていくはずの部分があります。そこを摩耗して研磨し、咬み合わせを整えていく。これによって顎と顎まわりの筋肉が楽になりやすくなります。舌ストレスを減らす方向へ整えることで、首こりや肩こり(かたこり)の負担が軽く感じられる方もいます。もちろん全員が同じように変化するわけではありませんが、「原因が分からない緊張が続く」という方ほど、口の中の力の偏りを見直す価値があります。
「削るのが怖い」方へ。0.1mm〜0.2mmの調整は、目的が違います
ここで不安になる方が多いので、はっきりお伝えします。私は歯を大切にすることに反対しているのではありません。エナメル質の表面を守り、虫歯になりにくくする考え方はとても良いことです。
ただし、形は年齢に応じて変化していくのが自然です。現代のように自然摩耗が起きにくい環境では、必要な方に限り、歯科医師が「本来削れているはずの形」に近づける調整を行う意味が出てきます。
動画でもお話しした通り、エナメル質は0.1mmや0.2mm程度調整しても、基本的に問題ありません。痛くもありませんし、そこから虫歯になることを過度に心配する必要もありません。なぜなら、目的は“健康な歯を削って弱くすること”ではなく、“本来の使い方なら起きていた形の変化を、現代の条件に合わせて補うこと”だからです。
もちろん、すべての方に同じことをするわけではありません。歯の削れ方、噛みしめの強さ、歯並びの状態、補綴物の有無、顎関節や筋肉の緊張などを見て、必要性を判断します。だからこそ「自分は対象なのか」「何が原因なのか」を、まず一緒に確認することが大切です。
こんな方は、一度「咬み合わせと舌ストレス」を確認してみてください
歯が尖ったまま残りやすい方、歯並びが狭いと言われたことがある方、舌の縁に歯型がつきやすい方、頬の内側を噛みやすい方、朝起きた時に顎が疲れている方。こうしたサインがある場合、口の中の力の偏りが続いている可能性があります。
そして、その偏りが続くと、噛む筋肉が頑張り続けてしまい、首こりや肩こり、場合によっては腰痛のような全身の不調とセットで悩む方もいます。「いろいろ試しても解消しない」「原因がはっきりしない」そんな時こそ、口の中から整理できることがあるかもしれません。
動画はここから次回へ続きますが、今回お伝えしたい結論はシンプルです。エナメル質は、守るべき鎧であると同時に、年齢と環境に応じて“正しく形を変える”ことで、歯と体を守る一部でもある。現代の生活でその変化が起きにくいなら、必要な方には歯科医師が調整してあげる意味がある。私はそう考えています。
「自分の歯の削れ方は大丈夫?」「咬み合わせの負担がありそう」「舌がいつも当たっている気がする」そう思った方は、早めに相談してください。小さな違和感の段階で原因に目を向けるほど、選べる対策が増えて、安心もしやすくなります。
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