今日はあなたの口の中はどんな世界なのか?というお話をしたいと思います。
率直に言うと、あなたの口の中は小さな地球なんです。
まずあなたの口の中には、唾液の海があります。(図1)
その中に歯の山脈があります。(図2)
唾液の海の下からは、舌下腺(ぜっかせん)、顎下腺(がくかせん)という泉が湧いています。(図3)
上からは耳下腺(じかせん)という滝が流れています。(図4)
この滝は、ばい菌が一匹もいない清流なんです。
そして、唾液の海の中にはとても小さい粒の中に、1億個ぐらいのばい菌がうごめいています。
さらに歯の山脈には植物が生えています。(図5)
これがデンタルプラーク細菌という植物で、絡み合って林や森のようになっています。
その中に運動性菌という、運動するばい菌がうごめいています。
山脈の上にいるばい菌たちは、通性嫌気性菌(つうせいけんきせいきん)と言って、空気があっても生きていけるんです。
例えて言うと、ヒトデとかイソギンチャクのような浅瀬の生き物。
そして歯周ポケットという歯と歯茎の間にある溝、そこにいるのは空気があると生きていけない偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)です。
歯周ポケットが4㎜あるとします。
そうすると、ばい菌の大きさは1000分の1㎜なので、4㎜の歯周ポケットは我々の世界で言うと海溝4000mのマリアナ海溝みたいなものなんです。
その底にいるので、深海魚のようなものですね。
浅瀬の生き物と深海魚の間は何層かに分かれていて、住み分けがされています。
隣接しているものとは仲がいいんです。
自分が食べたものを出してあげて、次が利用する。
そして、また出してあげてその次が利用する。
このようにそれぞれお隣さんとは仲がいいんですけれども、上と下は仲良くないんです。
バクテリオシンと言う抗生物質を出して、お互いに牽制し合っています。
住むところによっては4層ぐらいに共生と拮抗が行われています。
バクテリオシンは一番遠い種族だけではなく、自分の同族にも出すんです。
なぜかと言うと、自分のご飯を食べられてしまうからです。
やはり一番のライバルは同族なんですね。
だから仲間と一番遠い種族に対して、バクテリオシンという抗生物質を出して戦っています。
その間には免疫組織という警察がまわっていて、貪食細胞と言う大きな戦車でパクっと食べたり、抗体、補体というミサイルや機関銃を撃ってまわったりしてパトロールをしています。
このように、口の中はひとつの完成された世界なんです。
さて、私が口の中のばい菌を患者さんに説明する時の例えとして、このような言い方をしています。
虫歯菌というのは広域暴力団Aです。
深海魚の歯周病菌というのは広域暴力団Bです。
免疫が警察です。
そしてもう1つ、弱小組織Cと例えている真菌というカビ。
実は口の中にはカビがいるんです。
カビは普段、口の中でじっと大人しくしています。
しかし、抗生物質を大量に使って虫歯菌と歯周病菌が絶滅するような状態であると、警察の免疫ではなくカビがたくさん出てくるんです。
これを菌交代現象と言います。
こうやって口の中は常にバランスがとれているんですね。
そのおかげで、外から入ってくる凶悪犯のような菌が入る隙がないんです。
ちゃんと住み分けをして私たちの身体を守ってくれているんですね。
さらに、唾液はとても重要な役割を果たしています。
唾液の中に6つか7つほどの抗菌物質がありますが、口の中の細菌は耐性があるので唾液があっても生きていけるんです。
しかし外から飛び込んできたばい菌は耐性がないので、体内に入らず唾液でブロックされています。
では次回は、人間とはドーナツみたいなものだ、というお話をします。
ここで一つ質問です。
口の中はあなたの‘体の中‘だと思いますか?
‘体の外‘だと思いますか?